骨盤は開かない-骨盤矯正ダイエットのウソ

骨盤が開くと太りやすい、骨盤を矯正して閉じると痩せる、そんな骨盤矯正ダイエットが一時はやったかと思えば、いまだにそんなこと言っている人たちがいるので驚きです。

解剖学的にみて骨盤が開くことはあり得ず、そして実際に骨盤が開くことは確認されていません。

骨盤は靭帯で固定されており開かない

骨盤が開くといっている人たちの根拠として、骨盤は複数の骨でできているから形が変わる可能性がある、出産時に骨盤が開くことで胎児が出てくるスペースができることが挙げられます。この2つ、しっかり検証しましょう。

骨盤の構造

骨盤の構造:中央の仙骨、左右の寛骨、前方で寛骨の間にある恥骨間円板(軟骨)

まず骨盤が複数の骨でできている点。

もちろんこれはその通りで、背骨の下に位置する仙骨、その左右にある大きな骨である寛骨からなります(さらに言えば寛骨は子供のころは3つの骨、腸骨・坐骨・恥骨に分かれており、成長によりこれが1つに融合してできています。完全に融合しており寛骨には隙間はありません)。

骨盤を作る骨のつなぎ目は2つあります。1つは仙骨と寛骨の間の仙腸関節。もう一つは体の正面側で、左右の寛骨の間にある恥骨間円板という繊維軟骨の接合部で、恥骨結合とよばれます。

仙骨と左右の寛骨のつなぎ目である左右の仙腸関節、正面側の寛骨のつなぎ目である恥骨結合部、ここが動くことで骨盤が開くというわけですが、とんでもありません。骨のイラストだけ見るからそんな勘違いが出るんです。もっと解剖学書をよく読んでみましょう。

骨盤と靭帯

骨盤の骨と靭帯。靭帯(白で描かれている)で骨盤は固定されているのがわかります。

骨盤は靭帯で取り囲まれ、動かないように固定されています。しかも、その靭帯の数は他の骨とは一線を画する多さ。これほど多いのは完全に固定するためで、なぜ固定されているかといえば、骨盤が固定されていないと内臓を支えることができないためです。

靭帯は若干の弾性があるので少し伸び縮みしますが、筋肉のように伸縮性に富む構造を持っていないので、大きく長さが変わることはありません。そもそも、靭帯は骨と骨をつなぎ関節がおかしな方向にいかないようにしているものなので、筋肉のように伸びたら体を保てなくなってしまいます(ちなみに骨と筋肉をつなぐのは腱。靭帯とよく混同されますが全くの別物ですよ)。

骨盤が開いたりしたら命に係わる

靭帯で囲まれた骨盤は開かないですし、開いたら内臓が落ちてきてしまうということです。

ちなみに、女性の場合、閉経後に骨盤の底にある骨盤底筋群と靭帯が弱くなることで生殖器官が骨盤より下に落ちてきてしまう骨盤内臓器脱という症状があります。
この症状は出産を経験した女性の3割に、閉経後に確認される症状です。骨盤が開くが真実なら骨盤内臓器脱が閉経に関わらず、男性も含めて頻繁に起きているはずですよね。

さらに言えば、骨盤内臓器脱でさえも骨盤は開きません。底の支えが弱くなるため起こるのであって、骨盤全体が開くほどのことは起こりません。

骨盤が開いたりしたら内臓器脱程度で済まないので、外科手術を施さないと命にかかわりますす。

出産時に骨盤が開くと聞きましたが?

出産時には、生まれてくる赤ちゃんの頭が産道を通れるよう骨盤が開く、という解説があります。出産後の開いた骨盤をしめるためのベルトまで売っています。

確かに開くのですが、ほんの2~3mmです。そして、出産が終われば閉じます。硬いゴムを引っ張って開いたようなものなので終われば元に戻ります。

整体のサイトなどで骨盤の骨に隙間ができているような画像が紹介されていますが、そんなことは起こりません。上述の通りそんなことが起こったら命にかかわります。

骨盤は隙間なくつながることで体重を支えていますが、これに隙間ができたら上半身の重みを受け止める部分が無くなり立つこともままなりません。

医療・解剖学の現場では骨盤が開かないのは当然の知識

高須クリニックの高須院長が、骨盤矯正をうたう療法士を「骨盤は絶対に開かない」と論破しています。その他にも防衛医科大学校・帝京平成大学で解剖学教授を歴任された竹内先生も「骨盤が開くことはない」と公の場で否定しています。

高須院長は美容整形が本業ではなく、町医者が本業で多くの患者さんを診てきたお医者さんです。
竹内先生をはじめ解剖学の医師達は、文献や生身の人間を見るだけでなく、検体を通して数え切れないほど実際の人体を解剖して生で見てきた人たちです。
そうなんです。人体を開いて中から目で見たうえで、骨盤が開いている症例なんて確認されていないんです。

対して骨盤が開くと主張している方々は、整体などを生業としており、解剖を経験していない人たちです。もちろん整体の先生でも知識も技術も素晴らしい人たちはいますので、整体師の全てが誤りとは言いません。
ただし、骨盤が開くと言っている人たちは残念ながら医学的知識が乏しいと断言できます。

骨盤で大事なのは前後の角度

上述の竹内先生はおっしゃっています。
「骨盤が開くことはありません。骨盤は前後の角度は変えられるので、この角度が重要です」

骨盤が後ろに傾けば猫背になりますし、前傾しすぎると反り腰になります。骨盤が直立、もしくは若干の前傾であることが大事なんです。

骨盤の傾き

骨盤の前後の傾き

自分の骨盤の角度が適正なのかよくわからない、という方は多いと思います。

「姿勢を意識する=骨盤の角度が変わる」なので、このサイトで解説している正しい姿勢を意識して作っていけば、結果として骨盤の角度も適正な範囲に収まります。

猫背や反り腰の人は、慣れないうちは気を抜くとすぐに骨盤が後傾してしまうので、壁などでチェックできない時は骨盤が後傾していないか確認して直していきましょう。

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